★シーツのおばけの話。【vol.12】
「A GHOST STORY」という映画、知ってますか。
私は映画館で観そこね、数年前WOWOWで放映された時にDVD-Rに焼いたのですが、観ないまま今日まで来てしまった。
ぜったい好きなタイプの作品だろうなと思ってましたが、タイミングはかってるうちに数年経っちゃった。で、ここに来てやっと観ることができたのです。
やっぱり、果たして、とても好きな作品でした。「大好きで大切な映画の箱」(そんな箱はないのだけど)に入れる一本ですわ。
シーツがすごい。とにかく。
とっくにご存知の方も多いと思いますが、知らない方のために一応あらすじを。
田舎町の一軒家に住む夫婦、CとM。幸せな日々を送っていた彼らですが、ある日C(夫)は不慮の事故により死んでしまいます。幽霊になった彼は家に戻り、静かに妻を見守り続けます。
こういう「死者が生者を見守るお話」は「ゴースト〜ニューヨークの幻」始め色々あるけど、この作品が変わってるのはその造形。幽霊となった夫は、どデカいシーツをかぶってる。子供が「おばけ」と聞いて真っ先にやるような、ハロウィンの仮装のような。目のところにはハサミであけた穴がちゃんとついてて、ちょっと滑稽。シーツ(もともと病院で遺体を覆っていたもの)はよく見ると少しだけゴワついてシワもあり、ちゃんと実体なの。
目も顔も身体も全く見えないけれど、光に透けると中に人のかたちが見える。布の向こうに、手足も肩幅も感じさせます。
よくある「幽霊なので透けてしまう」みたいなはかないものではなく、やけにしっかりした質量のある存在。でも、生きた人間の目には見えない。リアルシーツかぶってんのにね。
この幽霊が、ただひたすら(喋れないから)無言でそこにいる。妻を見つめる他は、そこいらを眺めたり、ゆっくり歩いたり、手で触れたりもする。成人男性の上背がありたっぷりしたシーツに覆われた幽霊が動くたび、そのドレープがそれはそれは豊かな表情を見せるのですよ。芝生の上をするする引きずったり、風になびいたり、床にぶわっと広がったり。これがとにかく美しいの。(このシーツにアカデミー衣装デザイン賞あげるべき)
表情が全く読み取れないのに、観てるうちにだんだん彼の感情が伝わってくるから不思議です。パッと見はシーツおばけだから何だかおかしみがある。でも切ない。存在感があるのに圧倒的に孤独。
彼は向かいのおうちに花柄シーツの幽霊を見つけて、(無言のまま)短い会話をします。
「こんにちは」
「やあ」
「ここで人を待ってる」
「誰のことを?」
「覚えてない」
このやりとりがあまりに切なくて思わず落涙。シーツの幽霊たちがその場に居つづける理由。それは心残りな何かがあるから。でも長すぎるとその「何か」を忘れてしまう。
幽霊は不思議な力で妻をピンチから救ったりはしないし、妻が夫の存在に気づくこともない。時が流れて妻は新しい生活のために家を出てゆく。そこからの展開は完全に予想外でした。
妙な表現だけどこれは「ある幽霊の一生」であり「幽霊たちの日常と生態」です。幽霊のシーツは時が経つにつれどんどん汚れて古びていくんです。幽霊も、生きてまた死ぬの。
みんなここにいて、いなくなる。
映像が静かで美しく、お話は詩的でファンタジック、主人公はかわいい(?)。そんな理由でこの作品はものすごく好みですが、あとひとつ、「亡くなった人」のかたちや存在の仕方が、これまでで一番しっくりきたというのがあります。
父や義母を亡くして、私は初めてリアルな実感を伴った喪失感を得ました。そして「亡くなった彼らは今どこでどうしているのか」という思いが当たり前みたいに日々のそこかしこからわいてくるのです。
「A GHOST STORY」は「幽霊の一生」ではあるけど、視線を引くと「死んだ者たちは確かに今もここに存在し、そして再び消えていく」と言われてる気がしました。そこに無関係でいられる者は存在しない。誰もがいつか、それになる。そして永遠に巡る。
極めて台詞の少ない作中で唯一、ある男がものすごく長く喋る場面があるのですが、諸行無常と永遠のつながりを同時に感じさせるような彼の台詞もこの映画の肝であり、かなしいけど悪くない。
だから、生きてる私と死んだ親(とその他の人々)の境目はあんまりなくて、いまここに同時に存在してるのかもなー。
私も、死んだらすぐあの世に行ったりしないでそこかしこをうろうろするだろうな。推しのライブにも行くよ!
きっと今も、シーツの幽霊がそこかしこで拳を振り上げてるのかもしれないね。
そう思うと、なぜかちょっと安心したりしました(笑)
よかったら、配信で観れるので観てみてね。
ではまた次回!
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